フリー素材と思っていたものが後で有料に変えられ、ずっとサブスク料が発生しているといったトラブルが報告されています。実際のところどうなのでしょうか?
本記事では
・著作権侵害における法的責任
・フリー素材をめぐるトラブル集
・「後出し有料化・請求」の実態
・トラブルを防ぐための注意点
について解説します。
フリー素材は本当に“安全”なのか?

まずは、フリー素材についての確認です。
フリー素材とは
フリー素材とは、著作者が定めた「一定の規約・条件の範囲内」であれば、だれでも自由に利用できる画像やイラスト等のデータのことで、多くはWeb上で配布されています。もっとも有名なのは「いらすとや」ですね。
イラストや写真のほか、音楽、効果音、動画、フォント、アイコン、テンプレート等、さまざまなフリー素材があります。その手軽さゆえ、個人だけではなく企業でも利用は広がっています。
「無料だから安心」の盲点
「無料で取得できる」「フリーと表示されている」というだけで、自由に利用できると考えるのは危険です。無料=著作権放棄ではないからです。
無料であっても利用条件が定められることは珍しくなく、その条件内でのみ利用が認められるに過ぎません。条件に反した利用は著作権侵害を指摘されるおそれがあります。
取得利用時に重要なのは「無料かどうか」ではなく、「どのような条件で利用が許諾されているか」です。これを勘違いすると、思わぬ責任を負うことになります。
どこまで責任を負うのか?

著作権を侵害した場合、「画像を削除すれば済む」と安易に考えてはいけません。利用状況によっては、以下の法的責任を問われるおそれがあります。
民事責任
〇財産権侵害
故意又は過失により他者の著作権を侵害した場合は不法行為が成立し、損害賠償を請求される可能性があります(民法709)。
なお、著作権法114条には被害者による損害額の立証を容易にする以下の推定規定が設けられています。
| 1項 | 侵害品の販売数量などを基準に損害額を推定 |
| 2項 | 侵害者が得た利益を権利者の損害額と推定(利益の吐き出し) |
| 3項 | 少なくとも通常受けるべきライセンス料相当額は請求できる |
〇慰謝料
著作者の名前を表示しなかったり(氏名表示侵害)、作品を無断で改変して著作者の意図や名誉を損なったり(同一性保持侵害)した場合には、著作者人格権の侵害として、精神的苦痛に対する慰謝料の支払いを求められることがあります(民法710条)。
〇差止請求(削除・掲載停止)
著作権者から掲載の差止めや画像の削除を求められることもあります(著112条)。 すでに公開されているホームページやSNS、広告等は画像の使用停止を余儀なくされ、問題画像が含まれるパンフレットや商品パッケージは回収・廃棄せざるを得なくなります。
刑事責任
故意に著作権を侵害した場合、個人であれば10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金(またはその併科)(著119条1項)、法人の業務として侵害が行われた場合には、当該従業員だけでなく、法人にも3億円以下の罰金(著124条1項1号)が科される可能性があります。
フリー素材利用のトラブル事例

トラブルの多くが利用権原(使う資格、権利)や利用条件(権原ある者が従うべきルール)について確認が不十分であったり、勘違いしていたりといった事案なんですね。
実際の裁判例を見てみましょう。
フリー素材だと思って使ったら利用権原がなかった
「夕暮れのナパリ」事件 東京地判平24.12.21
【事案】
被告は「ハワイ」と検索、サイト「壁紙Link」から本件写真を選択した。その後、リンクをたどって遷移した先のページに「デザイナーズ壁紙は海外のショップでフリーの素材として販売していたものを収集したもの、及び、海外のネット上で流通しているものを収集したものです。無料ダウンロードした写真壁紙は個人のデスクトップピクチャーとしてお楽しみください。また、掲載の作品をホームページ素材として、お使いいただく場合にはリンクをお願い致します。」との記載があった。これを見た被告は、本件写真は自由に利用できるものと考え、利用条件の確認やリンク付けすることなく、自己の旅行業に使用する営業用サイトにアップした。
☝️ポイント
本件は、無許諾掲載(ライセンスなし)の事案です。
裁判所は上記記載事項を一定程度の注意をもって読めば、壁紙Linkが本件写真の利用許諾を受けていないこと、つまり、利用権原について十分な確認を怠った過失があるとして、著作権(複製権・公衆送信権)侵害を認め15万円の損害賠償責任を認めています。
ライセンス条件の見落とし
クリエイティブ・コモンズライセンス違反事件 東京地判令4.7.13
【事案】
原告である写真家が自身の写真を画像共有サイト「Flickr」に掲載、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)を付して公開していた。CCライセンスとは著作者が定めた利用条件を守ることを前提に、利用を許諾する仕組みである。本件では「BY-SA」(著作者名等を表示し、改変した場合は同一のライセンスを付加すること)が付されていたところ、被告は著作者名や写真タイトルを表示することなく自身のウェブサイトに掲載した。
☝️ポイント
本件は、ライセンス条件違反の事案です。
裁判所はCCライセンスで定められた利用条件に違反した場合、ライセンスに基づく利用許諾は成立しないことになり、著作権(複製権・公衆送信権)及び氏名表示権の侵害を理由に、15万円の損害賠償を命じました。つまり、利用条件を満たさない場合は結果として利用権原を欠くことになります。
無断改変による著作者人格権侵害
写真のトリミング 東京地判令4.5.19
【事案】
原告は旅行写真を撮影する写真家であり、自身が撮影した写真をインターネット上で公開していた(フリー素材ではない)。
被告は、原告の許諾を得ることなくこれらの写真を自社が運営する旅行情報サイトに掲載したが、その際、写真の一部をトリミングして使用し、さらに撮影者名(クレジット)も表示していなかった。
☝️ポイント
裁判所は被告による写真掲載について著作権侵害を認めるとともに、写真をトリミングした行為は著作者の意に反する改変に当たり、同一性保持権を侵害すると判断しました。また、撮影者名を表示しなかった点についても氏名表示権侵害を認め、写真の掲載差止め及び損害賠償(6万円)を命じています。
本件はフリー素材ではありませんが、仮にフリー素材であっても、ライセンスによっては改変が禁止されている場合(「ND(改変禁止)」等)に無断でトリミングや合成等の加工をすると、ライセンス違反となる可能性があります。
「後出し有料化・請求」は本当にあるのか?

では、「フリー素材のはずが有料になりサブスク料が発生している」「過去利用分まで請求された」という噂を検証します。
2つの類型
後出し有料化と考えられるのは2タイプがあります。
【B】当初からユーザーの勘違い
ユーザーの勘違い、見落としが原因であるケースです。
・商用利用と個人利用
「個人ブログは無料」と書かれたイラストを、副業のアフィリエイトブログに掲載した
・点数制限オーバー
「1回のご利用につき3点まで無料、4点以上は有料」という規約を見落とし、同じサイトの素材を10点以上並べて使用した
・無料条件の見落とし
「著作権者の名前を記載すれば無料、記載しない(隠す)場合は有料」というルール(クレジット表記)を知らず、無表記でアイキャッチに使用した
【A】 事後的なライセンス体系の変更
「後出し請求された」と感じるのはこちらのケースが多いでしょう。
・サイトの全面有料化、サブスク化
無料で利用できていたサイトが有料化、利用規約を変更、それ以降にダウンロードする素材が有料になった
・運営主体の変更
個人が運営していた「商用フリー」の素材サイトが大手企業に買収され、新運営のポリシーにより「ビジネス利用は一律有料」へと規約変更された
・「無料枠」の入れ替え
「今週の無料素材」としてダウンロードした画像を保管、数か月後にWebサイトで使用するも、その時点では「有料(通常価格)」に戻っていた
後から有料化でも、過去の利用に直ちに影響するとは限らない
Web上のフリー素材のダウンロードや有料素材を購入する行為は、利用許諾契約(ライセンス契約)にあたります。他の契約と同様、誰と、どのような内容・方式で、締結するかしないかは、当事者の合意で決まります(契約自由の原則)。
そして契約の内容は、原則として契約成立時の条件が基準となります。すなわち、運営者が後日利用規約を変更したとしても、利用者がこれを受け入れる義務はなく、不満であれば退会等の措置をとることが可能です。
ましてや、特段の合意がない限り、その変更を過去に成立した契約に遡って適用することはできないのは当然です。
この点、Aはそもそも後出し請求とは言えないでしょう。利用開始時に規約をきちんと確認、忘れないように保存すれば防げたはずだからです。
これに対して、Bでも、素材の取得・利用時に規約内容を確認、保存していたかが重要になります。
トラブルを防ぐための注意点
後出し請求(=当初の条件が通らない)と指摘される事案の本当の問題点は、取得時のライセンス内容を証明できない点にあると思われます。
だからこそ、ライセンス内容が問題となった場合に備え、ダウンロード日時が分かる記録や、当時の利用規約・ライセンス条件をスクリーンショットやPDF等で保存しておくことが大切です。これら記録は適法に利用許諾を受けていたことを示す有力な資料となるからです。
それ以外にも、素材の出典を必ず確認、信頼できるサイトのみ利用、こまめな利用条件(ライセンス)の確認も欠かせません。
「フリー素材」という言葉だけを鵜呑みにせず、上記事項を確認する習慣がトラブルを防ぐ最も確実な方法といえるでしょう。
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