まもなく新年度を迎えますが、子を持つ親にとって悩ましいのがPTAです。少子化の一因とさえ言われるPTA、保護者としてはどのように関わっていけばよいのでしょうか?
本記事では、まず
・PTAの意味、法的性質
・PTAのメリット・デメリット
を確認します。そして、PTAにおける
・入退会
・会費
・役員着任
について、判例を参考にしながら検討します。さらに
・苦情を訴える先
・実際にPTAを廃止解散した例
についても紹介します。
PTAの意味
まず、問題点を語る前にPTAがどういった組織なのか、PTAが担う役割や性質について解説します。
PTAとは
PTAとは、Parents (保護者)、Teacher (先生)、Association(組織)の略称で、各学校で組織された保護者と教職員による教育関係団体のことです。
〇活動内容
PTAの活動内容は、学校行事の運営や手伝い、廃品回収、地域パトロール等、学校内外にわたって広く行われていますが、学校教育の内容に関わることはできません。
〇法的性質
PTAを正面から規定している法律はなく、法的には「権利能力なき団体」と位置付けられています。すなわち、労働組合や町内会、各種サークルと同じ扱いであり、組成も加入も任意の団体です。
学校とは別の団体ですが学校ごとに組織されている点で、本来任意団体であることをわかりにくくしているようです。
〇PTAの特殊性
学校を中心に組成されるも学校とは別、学校に関係する活動を行うも教育内容には踏み込まない、保護者としては釈然としませんが、これにはわけがあります。
憲法に保障されている教育の自由(26条1項)は教育権を含みます。
MEMO
教育権とは、どのタイミングで、どんな内容の教育を、どのような方法で子どもに施すのかを決める権利のことです。
この教育権の所在について最高裁は、大枠については国家が決定し、教師も一定程度の決定権をもつ(完全ではない)が、親はどの学校に進学させるかという選択の自由のみ持つ、としています(旭川学力テスト事件 最判昭51.5.21)。ここでは「親の教育権」という発想がないのです。
つまり、学校教育そのものについて親は口出しすることはできません。労働組合のように労働基本権が背景にある団体であれば活動にも力が入りますが、権利がないのに中核部分以外の雑用が求められる団体、それがPTAです。
PTAのメリット・デメリット
ではPTAがあることで、どのようなメリット・デメリットが生じるのでしょうか。
学校や家庭によってPTAに対する感想は様々ですよね。ここでは一部を紹介します。
PTAのメリット
・子どもの学校生活を身近に感じる
・親同士の交流が生まれる
・学校に意見をしやすくなる
・地域社会や行政とも繋がりができる
PTAのデメリット
・負担が多すぎる
・保護者同士の揉め事のタネになる
・未加入者の存在や役員の偏りで不公平を感じる
・会費の使途が不透明
PTAに入らないとどうなる?
共働き世帯が増えた現在では活動の煩わしさや負担の重さに目が行きがちです。そこで、「PTAに入らない」という選択について考えてみましょう。
PTAに入らないといけない?
PTAは任意加入団体であり、保護者には「入退会の自由」があります。つまり、入っても入らなくてもよいのです。
この点、保護者がPTA会費の返還を求めた事件(熊本地判平成28年2月25日)では「前提となる事実」としてPTAを「入退会自由の任意加入団体である」と認めており、令和5年3月の参議院予算委員会でも、岸田内閣総理大臣らがPTAの入退会は自由であることを明言しています。
〇入退会手続き
PTA加入契約は書面でする必要はありません。したがって、「入る」との意思表示だけで加入が完了することになります。
しかし、「強制加入だと思っていた」「絶対に入るように言われた」といった場合は錯誤や強迫を理由に加入の意思表示が取消の対象になる可能性があります。
こういった事態を避けるためには、新入生の保護者に対しては「入会を希望する/しない」の選択肢を明記した入会の希望届を配布することが望ましいでしょう。
一方、退会も自由です。こちらも「退会する」と一言告げれば足りますが、書面の交付が望ましいでしょう。
〇学校とは別の団体である
注意すべきは、PTAは学校から独立した団体であるという点です。
すなわち、保護者の同意なくPTAが生徒や保護者の個人情報を学校側から提供を受けることは個人情報保護法27条1項に違反します。
同じメンバーだからと安易に学校と情報を共有していないかを確かめる必要があります。
会費は納めないといけない?
加入したくない保護者から会費を強制的に徴収することはできません。したがって、保護者は加入しない意思表示をした上で会費を納めないことに何ら問題はありません。
〇加入しないが会費は払ってもいい
中には「PTA活動はしたくないが会費を払うのは構わない」と考えて会費分を納める保護者もいますが、支払えば加入の意思ありと認定されるおそれがあります。
上記熊本地裁判決では、保護者が「会費」と記載された封筒にお金を入れて納付したことや後日退会届を出したことから、納付時に加入の意思ありと認定しています。
もし加入しないのであれば、「会費」ではなく「寄付」という形をとるのがよいでしょう。
〇加入するが会費は払わない
PTAが主催する福利厚生的なの恩恵とPTA会費は対価関係にあります。よって、金額が相当である限り会員は会費を支払わなくてはなりません。会費を負担しない加入者に対しては不当利得返還請求及び退会を促すといった対応が考えられます。
〇加入もしないし会費も払わない
PTAに加入せず会費も納入しない保護者に対しては、PTA活動の恩恵を受けられない可能性がある旨を伝えた上で、加入を促すことは問題ありません。
ただ、実際のイベント等で「払っている子・払っていない子」を区別して待遇に差を設けるのは気まずいものがありますよね…。
かといって一律に扱えば、納入しない保護者の子どもが結果的に恩恵を受けることになり(フリーライダー)、不公平感は避けられません。
ここで判例(大阪地堺支判平成29年8月18日)を紹介しましょう。
【事案】
中学校の修了式に際し、保護者会会員の子女には同会が準備したコサージュ及び一輪花を、退会した保護者の子女にはその保護者が用意したコサージュ及び一輪花を交付したという事案です。退会保護者が、自身の子が他の生徒と同じものを交付されなかったことを理由に保護者会等に対して慰謝料請求を求めました。
【判決】
裁判所は、保護者会には会員の子女にコサージュ等を交付するという意思決定の自由があるがその自由を制約する法的な根拠はないこと、保護者会が非会員の子女に交付しないという不作為には悪質性・悪辣性が認められないこと、実際には原告が子女にコサージュ等を交付しており損害はないとして、保護者の請求を退けています。
【考察】
PTAには退会した保護者の申し出をすべて受け容れる義務はなく、また、会員の子どもと退会保護者の子どもとの間で取扱いに差異が生じるのはやむを得ないといえるでしょう。
役員はやらないといけない?
役員着任も任意が原則です。ただし、規約に役員着任義務が定められていることがあり、これに同意すれば後から拒むことは難しいと思われます。したがって、加入時に規約内容をしっかり確認する必要があります。
もっとも、気付かずに加入した場合は、退会することで着任を拒むことができます。
苦情はどこへ?
PTAの諸問題について疑義や不満がある場合は、以下の機関へ善処を申出ることができます。
〇PTA会長や学校長
まずはPTAの代表者や学校長です。その際には自治体の教育委員会が発行するPTA活動や運営に関する通知を見せて改善を求めるとよいでしょう。
すべての自治体が通知を発行しているわけではありませんが、該当しない地域の保護者も「このような通知がある」と会長や校長に示せば改善を求めやすくなり、また相手も動きやすくなります。
通知の例をいくつかご紹介します。
・長野市教育委員会:学校におけるPTA活動の是正のお願いについて/長野県
・大津市教育委員会:【考えようPTA】大津市教委の「PTA運営の手引き」全文 | 東京すくすく
・埼玉県教育局:埼玉県教委PTAチェックリストと事務連絡
〇警察
多くのPTAでは役員や会計担当者が一年ごとに交代するため、引継ぎ時に帳簿上に不適合があっても無視されがちです。その結果、背任や横領の被害が多発しており社会問題となっています。
役員のみならず会員には収支状況を知る権利があるため、不審に思った時は情報公開を求め、悪質な水増し請求や使い込みを見つけた場合は警察に通報することも検討します。
〇裁判所
不公平な扱いや負担を強制されたことによる精神的苦痛については、裁判所に訴えて損害賠償請求ができます。裁判は大げさとも思えますが、60万円以下なら少額訴訟が利用でき、原則1回の期日で審理を経て判決が出ます。裁判所による「違法」判断を取りつけることは、納得できない保護者にとって意味のあることです。
PTAは廃止・解散できる?
PTAは任意団体であり、その設置も廃止も任意です。実際の例を紹介しましょう。
PTAを廃止・解散した学校
【廃止した学校】
・東京都大田区立嶺町小学校
・東京都杉並区立和田中学校
【解散した学校】
・東京都立川市立柏小学校
・岡山県PTA連合会
廃止したらどうなった?
前例踏襲をやめてタスクの洗い出しを行った結果、運営がスマート化され無駄遣いも減ったとの報告がされています。また活動を完全ボランティアとしたところ、活動に柔軟性が生まれ活性化した例もあります。
一方で、教員の負担が増えるという問題や、「見守り隊」のように人手が必要な活動が継続できるのか不安といった点も指摘されています。
子ども本位の活動を目指そう
任意団体であるPTAでは運営方式にも決まりはありません。業務のIT化はもちろん、思い切って有償化したり外部委託にしたりすることもできるのです。
保護者は学校教育の中身には踏み込めませんが、その周辺環境を整え子ども達の成長に参画することはむしろ保護者の権利と言えます。このような「親の教育権」という観点からPTA活動を見直してみてはいかがでしょうか。
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