小川晶前橋市長とその部下の男性がラブホテルに10回ぐらい行っていたのに、不貞ではなく業務上の相談をしていたと主張している件が話題になっていますね。
各コメンテイター弁護士が言っているように、ラブホテルというものは、社会通念上、男女がそのような行為を行うところであるので、いくら相談事をしていたと主張しても、10回も行っていたら、肉体関係の不貞行為はあったと認定される可能性は高いです。
しかし、小川晶市長のように、不貞行為が認定されるような行為をしているにも関わらず、それを認めて賠償を支払おうとしない場合、被害者である市の職員の妻は、弁護士に依頼して裁判をすることを考えなくてはならなくなります。
本記事では、
①不倫裁判の手続の流れと内容 小川晶市長の場合は?
②不倫裁判を提起することによるデメリット
③不倫裁判で気をつけること
について解説し、今後の小川市長の事件の考えられる展開を解説します。

中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表弁護士、櫻井俊宏が執筆しております。
1 不倫裁判の手続の流れと内容 小川晶市長の場合は?
まずは、どのような不貞事実を訴えるか、どのくらいの金額を請求するか等を記載した「訴状」を作成して裁判所に提出します。
訴状は裁判所用(正本)と相手方用(副本)の2通作成し、2通ともに裁判所に提出します。
不貞行為の写真やLINEの文章の写真等、証拠があるときは各証拠も2通ずつ添付します。
ただし、不倫の裁判を提起する場合は、他の裁判と違って、相手が否認するかどうか出方をうかがうため、よっぽど証拠が充実している場合以外は証拠なしでスタートするのが良いでしょう。
証拠がないと、相手は後で矛盾した主張をしてしまわないように、実際にあった事実をベースに事実関係について主張せざるを得なくなり、混乱するので、この証拠なしの提出というのは、特に不貞行為の裁判において、有効な訴訟戦術です。
訴状は、裁判所から1通が相手方に送られます。本ケースでは、訴訟が提起された場合、小川晶市長の住所地に送られるわけです。
相手方が受け取り拒否等をして届かない場合は、裁判所に上申して、相手方の職場に送らせることもできます。
職場がわからないまたは届かない場合は、訴状を提出した当事者が相手方の住所を調査し、その結果次第で訴状が届いたことにして進める手続があります。
【参考記事】訴状を提出しても無視された場合 受け取り拒否された場合 欠席判決の効力とは?
この手続が行われて、裁判が始まったのに相手方が来ない場合、通常、こちらの主張した事実に基づいて賠償額が判決で出ます。通称「欠席判決」といいます。
この場合には、その後自らの判断で強制執行をしていく必要があります。
なお、訴状の作成は弁護士でないとなかなか難しいように思います。 相手方に訴状が届いた場合は、それから1か月半から2か月の間に裁判が始まります。 最初の期日では、相手方は「答弁書」という書面を出せば出なくて良いことになっています。 この後、訴状や答弁書の事実主張の内容を、平均1か月半ごとぐらいに期日があり、「準備書面」という書面と証拠を繰り返し提出し、お互いの主張で違うところ(争点)を整理しつつ、争うことになります。 小川晶市長の場合、自分も弁護士なので、これらの手続を自分でやるのでしょうか。弁護士が自ら訴えられた場合、手続はできるものの、自分のこととなり冷静な判断がしにくくなるので、代理人の弁護士を頼む人の方が多いようです。 一通り主張が尽きると、裁判官主導で和解手続を行うことが多いです。 不貞行為の訴訟の場合は、小川晶市長のような否認のケースでない限りは、賠償金額の相場感がはっきりしているので、和解になりやすいです。 和解ができなければ、最後にいわゆる証人尋問によって、両者の認識する事実関係の違いについて裁判所で尋問した後、裁判所により判決が出ます。 当然に裁判は時間がかかります。 代理人としての弁護士費用がかかってしまいます。 この弁護士費用は、判決になった場合は慰謝料額の10%程度は請求すれば認められるものの、実際に相手方から率先して支払ってもらうのは難しいです。 当然、加害者は訴状を家に送られてしまいます。 小川晶市長の場合は独身ですし、現に世間に明らかになっているので問題ないですが、ダブル不倫で配偶者に不倫がばれていなかった場合、偶然不倫していた本人が家にいて受け取るようなことがない限り、配偶者に不倫の事実がばれることになります。 特に不倫の否認事件は、この小川晶市長の場合もそうですが、ラブホテルに行ったのだけど肉体関係までは結んでいないとか、相手の夫婦関係は破綻していたので不倫ではないとか、とにかく反論すれば良いという感じのひどい内容の主張があり、たいがい怒りマックスです。 [speech_balloon_right1 user_image_url="http://asbirds.jp/media/wp-content/uploads/2020/09/CW_6152793-03.jpg" user_name="櫻井弁護士"]このように事実関係に争いがあるほど、準備書面も積み重ねられ、両者の精神的負担はかなりのものになります。
私ならできる限り自分でやりたいですね。特に訴えられたような場合には。
これにより、どちらが何円支払うか等、両者の結論に関する意見が一致すれば和解となります。
「和解調書」というものが作成されれば、判決と同じ効力を持ちます。2 不倫裁判のデメリット
1 時間がかかる
不倫をした方が、不倫の事実を否認した場合には、争点が多くなるので、なおさら時間はかかります。
前述のように1か月半前後に1回しか期日は行われず、最終的な判決までは1、2年かかることもあります。2 弁護士費用がかかる
不倫の裁判においては、賠償額の相場感はわかりやすいので、あまり賠償額の相場から離れた主張をして話がこじれ、裁判になってしまうのは、弁護士費用をいたずらに負担することになるので、もったいないということになります。小川晶市長の場合、自分で遂行もできるものの、やはり精神的負担が凄いので、弁護士に頼む可能性が高いように思います。
[clink url="https://asbirds.jp/media/request-for-compensation/"]
また、和解の場合は、弁護士費用を考慮せずに、お互いの意見を調整することが多いです。
弁護士費用はお互いに負担しているからです。3 裁判をされる側は家に訴状が送られてしまう
加害者に弁護士が就いていたとしても、原則として弁護士事務所に送られるのではなく、いったん加害者本人の家に送られることになります。4 精神的に疲弊する
3 不倫裁判で気をつけること 賠償額はどれぐらいが妥当か?
加害者が不倫したこと自体は争わず、ただ例えば相手方が1000万円を請求してきたが、金額が大きすぎる等、単なる金額の争いの場合は、加害者側は、主張の仕方に気をつける必要があります。

いくら被害者がとんでもない過大請求をしているからといって、ヒートアップして被害者を攻撃するような主張になると、紛争は激化し、和解の道は途絶えます。
不合理な否認はすべきではありません。
ラブホテルに行ったシーンを撮られている場合は、原則として不貞(不倫)があったというように認定されます。
「部屋には入ったけど性行為はできなかった」というような主張は、よほどそれを裏付ける証拠(例えば、その後性交渉をしないで帰ったことが明記されているLINEのやりとりがされている)がない限り通用しません。
不倫事件の損害賠償請求事件においては、双方に弁護士が就いた場合、交渉でまとまることも多いです。
賠償額の相場感がはっきりしているからです。
しかし、もちろん、交渉では妥協点が見いだせず、裁判になることもあります。ここからは損害賠償請求の交渉が決裂し裁判になった場合、特に問題になる、
・加害者が否認をした場合
・ダブル不倫であった場合
・賠償額に争いがある場合
の3つについてお話します。
1 加害者が否認をした場合
これが典型的に不倫事件がこじれ、裁判になる場合でしょう。
裁判上で、「不貞」といえる行為があったかどうかが争いになります。
当然、訴えた方は証拠をもって立証しなくてはなりません。
まず典型的な証拠は探偵の報告書です。探偵の報告書でラブホテルに行っていることが立証されるような場合は、性交渉、すなわち不貞があったと推定されます。
逆に言うと
「ラブホテルまで行ったが性交渉はしなかった。」
という否認をする人がいますが、ほとんどその主張は通用しません。
このような事案で
「新しく作るオフィスの内装の参考にしたいから従業員の女性とラブホテルに、仕事として2、3回行った。」
というくだらない主張をしてきた相手方がいました。
この事案では、ラブホテルのポイントカード(スタンプを押すタイプではなく、カードの中にデータがあるタイプ)をおさえていたので、調査嘱託という裁判上の手続により、裁判所がホテルに行った回数等をラブホテルに問い合わせて、その情報が開示され、2、3回ではなく何十回と行っていたことを明るみにすることができました。
自宅に相手を入れたが、その相手が日中に帰ったという場合は微妙です。
他にも不倫を推認させる補強的な証拠が必要でしょう。
また、加害者側が不倫を認めた書面(例えば「誓約書」)を書いた場合も、不倫の事実が立証できる場合が多いです。
しかし、後の裁判等で
「『不倫』という意味を知らなかった、性交渉まではしていない。」
という主張が通ることもあるので「○○と肉体関係を結んだことについて謝罪する。」などというように、きっちりと性交渉までしていることを認める内容の書面を書かせた方が良いでしょう。
また当然、録音やGPS等を配偶者が気づかないうちにしかけ、証拠を収集することも有効です。
相手方がきづかないうちにセッティングしても、違法ではありません。

最近ではLINEのやりとりが証拠となる場合が多いです。
LINEのやりとりは消されると再現が難しいので、見つけたらその場でスマホごと写メで撮って証拠を残しましょう。
通常はやりとりをスクロールして、一枚一枚写メで撮って証拠として提出することが多いです。
ただしあまりに量が多い場合には、LINEの場合には、「トーク編集」等を活用しましょう。
これらの証拠提出をしても相手方が口を割らない場合は、裁判の終盤で証人尋問が行われます。
最初から相手が非を認めなそうな場合であれば、証拠を残しておき、証人尋問の場で「弾劾証拠」としていきなり出すこともできます。
弾劾証拠は突然出すことができるので、相手方を慌てさせることもでき、裁判官に印象づけることもできるので有効な手段です。
2 「ダブル不倫」の場合
「ダブル不倫」とは不倫をした男女両当事者に配偶者がいる場合をいいます。
ダブル不倫の場合は、そもそも裁判となるとその加害者の配偶者にバレるということを考慮する必要があります。
裁判所に訴えを起こすと自分の配偶者と不倫を行った者のその家に訴状が届き、下手をすると受け取った者に訴えられたことがバレるからです。
具体的にいうと、夫Bが結婚しているC女と不倫をしたとき、そのC女の夫Dから裁判を提起されることが考えられます。その場合、自分の妻が家でDが提起した訴状を受け取ってしまう可能性があるということです。
このようなことが起こると、自分の家庭が崩壊となってしまう可能性があるので注意が必要ということです。

ダブル不倫で裁判にまでなると、4当事者の思惑が複雑に絡み合い、泥沼になってしまうのでかえってそれぐらいの状況に追い込むという仕打ちをしたいという場合以外は、なるべく裁判をすることは回避した方が良いように思います。加害者側は、ちょっと相場より多くの賠償を支払っても家庭を壊すぐらいならと、穏便に解決するべきです。

ダブル不倫の場合、自分の夫Bが相手の夫Dに先に交渉で過大な金額…たとえば300万円の賠償を支払ったとして、妻Aが相手の妻Cに裁判をした時同じ300万円を支払ってもらえるんですか?

いいえ、そうはなりません。
通常、相場通りに落ち着きます。なので、ダブル不倫の場合、先に誤って高額の賠償をしてしまわないことには注意が必要です。
更にダブル不倫の場合は、被害者が離婚をするつもりかどうかでも利益状況がかわってきます。
例えば夫Bに不倫をされても、妻Aが結婚生活を続けていくつもりかどうかです。
被害を受けた者が離婚を決めた場合は話が早いです。
妻Aとしては,相手の女C又は夫Bからできる限り多くの賠償を得て,夫Bとも離婚し,できる限りの今後の生活費を得ればよいのです。
しかし妻Aが夫Bと結婚生活を続けていくのであれば、夫Bが不倫したことについて不倫相手である相手妻Cに賠償請求していく際、それが相手の夫Dにばれてしまうと面倒なことになります。
前述のように、相手の夫Dが自分の夫Bに対して賠償を請求することになるからです。
このようになってしまうと、今後夫婦生活を続けていくつもりのAB夫婦としては、不倫相手である妻Cから100万円回収したとしても、相手の夫Dが夫Bから100万円を回収されてしまっては、夫婦全体としては結局何の利益も得られないことになってしまいます。
それどころか相手の妻Cと相手の夫Dが別居したり離婚したりした場合は、別居することになるような不倫により、夫B の方が相手の夫D に対して精神的損害をより多く与えたとなってしまい、100万円よりも更に慰謝料が高くなり、かえって請求をしたことが損になってしまうことも考えられます。
もし離婚をするつもりがなく、相手の家庭も離婚をするつもりがないのであれば「ゼロ和解」といって、お互いに賠償の支払いはゼロで、今後関わりをもたないという内容だけ約束をして終わりにするべきです。
3 賠償額に争いがある場合 不倫賠償の相場額はどれぐらいか?
通常の不倫事件の場合で裁判になるのは,金額で折り合いがつかないときでしょう。
確かに
「私はこんなにパニックになってしまっている、精神的にも参っているという診断も出た。だから1000万円が妥当だ。」
というような主張を繰り広げる人はいます。
しかし残念ながら不倫事件の場合、裁判所は
・結婚期間 ・性交渉の頻度 ・離婚になりそうかどうか |
等の要素で損害賠償額を算定します。
これら以外の理由はいくら主張してもほとんど考慮しません。
判決内容を見ると、裁判官は、主張した内容を見ていないんじゃないかとすら思うこともあります。
また、判決内容に不満があって高等裁判所に控訴しても、実務上ほとんど賠償額が変わることはないようです。
不倫事件では、上記の結婚期間や性交渉の頻度、離婚になりそうかどうか等の要素でどのぐらいの賠償額になるかは、実務上かなり明らかになっています。
そしてその結果はほとんど変わることはありません。
不倫が原因で離婚した場合は、200万円前後、不倫が原因で別居にまで至っている場合には150万円前後、不倫があっても夫婦が一応関係を続けられそうなときは100万円前後。これに不倫の性交渉の頻度や、結婚期間が長いかどうかで上乗せ事由になるかどうかというところです。
本件、小川晶市長の場合も、裁判になって不貞が認められたとしても、同じように、せいぜい100万円~200万円の賠償が認められるということになります。
4 本件小川晶市長事件のまとめ
最初にこの事件を聞いたとき、社長が部下の女性とラブホテルで何十回も打ち合わせをしていたという私の体験した事件とそっくりなので、びっくりしました。
その事件においても、被告が絶対認めない・謝らないマンでした。
しかし、この事件においても、不貞は認められ、賠償請求も認められました。
小川晶市長の場合は、その事件と違い、夜も行っていた、私費で利用している等、否認の説得力がより低く、裁判された場合には賠償が認められる可能性が高いでしょう。
そこで、小川晶市長は、裁判をされる前の交渉段階で、不倫は否認しつつも、慰謝料をある程度多額支払うことで容認してもらい、さやをおさめてもらうかもしれません。
なにしろ、有名人となってしまっているので、裁判が行われた場合の疲弊の度合いと報道(文春)の追いかけ方は、想像を絶するものがあります。
この場合、妥当な金額としては500万円を超えるぐらいの賠償でしょうか。
それにしても、本件は、小川晶市長が元所属していた弁護士事務所の弁護士がボス弁が本件の賠償請求について語る等、異様な展開を見せています。
「ラブホ密会」小川晶・前橋市長(42)のボス弁護士が語った見解「奥さんが慰謝料請求するのは正当な権利」「男の方も出てきて釈明を…」
しかも、私と同じ中央大学法学部出身なのも、、驚愕。
男女問題でご不明なことがあればお気軽に、離婚・男女問題事件を多数取り扱っている弁護士法人アズバーズにお電話いただければと思います。
【2025.10.4記事内容更新】
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