管理職でも残業代が出ないとは限りません。判断のポイントは「管理監督者」に該当するかどうかです。
本記事では
・管理職と管理監督者の違い
・判断基準
・企業が注意すべき点
を解説します。また、
もあわせてご活用下さい。
「管理職=残業代なし」という誤解

なぜ「管理職は残業代が出ない」という誤解が生まれたのでしょう?
歴史的背景
高度経済成長期、企業は年功序列の維持や士気向上のため「課長代理」「係長」等の肩書や役職を乱発します。
バブル崩壊後、コスト削減を迫られた企業は管理監督者には残業代を払わなくてよいという労働基準法(以下、法と言います)の規定を逆手に取り、残業代逃れの手段として管理職を悪用するようになります。
肩書をつけることによってその者を管理監督者であると装い、残業代を支払わないというわけです。
また成果主義の拡大に伴い、昇進や肩書をインセンティブに使う企業も増えました。
企業側の事情
企業にも悩ましい事情があります。
不況を理由に社員を解雇や賃下げすることができず、最終的には残業代削減に頼らざるを得ません。
また、IT化と本部主導の経営が進んだ外食や小売・サービス業では、現場管理職の裁量は縮小するも、「店長=管理職」という扱いは残り、実態と肩書の乖離が拡大する現象が生じています。
そして残業時間把握や36協定(企業と労働者があらかじめ結んでおく協定内容)遵守への対応といった管理コストも軽くないのです。
管理職と管理監督者はまったく別物

そもそも、「管理職」と「管理監督者」、似ていますが、これは全く別ものなんです。まずはその違いを説明します。
管理職と管理監督者の違い
〇管理職
企業が独自に決める「社内上の役職」のことであり、名称(課長・部長・店長等)で区別されます。
〇管理監督者
法41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」のことです。
厚生労働省の行政解釈では、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」と定義されており、名称は問わずその実態が重要です。
両者を比較してみましょう。
| 管理監督者 | 管理職や一般従業員 | |
| 法律の規定 | 法41条2号 | なし |
| 労働時間 | 制限なし |
1日8時間、週40時間まで
|
| 残業代支払 | 原則不要 | 時間外:1.25倍 休日:1.35倍 |
| 深夜手当 | 午後10時~午前5時:1.25倍 | 同左 |
| 休日 | なし | 最低週1日 |
| 休憩 | なし |
6時間超~8時間以下:45分
8時間超:1時間
|
| 経営への関与 | 経営者に近い立場 |
部署の業務遂行に限る
|
| 待遇 | 一般労働者に比べて高待遇 | 給与体系による |
比較するとわかるように、管理監督者は、管理職が受ける法律規制、つまり法律によって守られている囲いの外にいます。
判断基準
なぜ、管理監督者は他の従業員と異なり法律規制から除外されるのでしょうか。
管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者です。この立場にある者は経営者の視線で働くことが求められますが、職務や権限等に見合った十分な優遇措置が講じられておれば、一般従業員のように労働時間等の厳格な規制を行わなくても、保護に欠けるところはないというのが法41条の趣旨です。
そして、肩書等の形式や当事者の主観ではなく、職務権限、勤務態様、待遇という個別の実態に着目して客観的に判断されます。“本当にその立場にある人だけ”を想定し、むやみに広げてはならない、というのが裁判所の考え方です。
この職務権限、勤務態様、待遇という3要素について判例を見ていきましょう。
①職務権限
経営者と一体的に重要な意思決定に関わっているかという基準です。
▶否定例 日本マクドナルド事件 東京地判H20.1.28
役職:店長
☝️ポイント
- 店舗運営の重要事項(価格設定・販促・人員配置)は本部が決定
- 店長は「本部マニュアル通りに運営するだけ」で裁量が極めて限定的
→店長は管理監督者とはいえない
▶肯定例 セントラルスポーツ事件 京都地判H24.4.17
役職:エリアディレクター
☝️ポイント
- 5~6店舗(従業員数180名)を対象に店舗運営・サービス改善・スタッフ指導等、広範な統括業務を担当
- 店長・チーフインストラクターの第一次考課権限、一般職員の第二次考課権限あり
- 出退勤の承認・修正権限、勤務態度の改善指導労務管理の裁量権限あり
- 経営戦略会議にも参加
- 労務管理・人事・考課等の機密情報に接していた
- 予算管理についても一定の裁量
→エリアディレクターは管理監督者といえる
裁判所が重視するのは、人事権・収支管理・経営会議への参加・運営方針の決定権・機密事項への関与等、一般従業員との明確な権限差です。 ただし、企業全体の経営に関与していなくても、部門レベルで経営者と一体的に判断できる立場であれば、管理監督者性は肯定されています。

②勤務態様
勤務態様、特に出退勤をはじめとする労働時間について裁量があるかがポイントです。
▶否定例 デンタルリサーチ事件 東京地判H22.9.7
役職:不動産事業部部長
☝️ポイント
- 全ての従業員につきタイムカードで労働時間の管理
- 取引先への直行、及び取引先から直接帰宅する場合には事前に「直行・直帰申請書」という書面を会社に提出
- タイムカードに手書きの記載があるのは、朝、現場への直行や現場からの直帰が多かったことに起因すると推認
→不動産事業部長は管理監督者とはいえない
▶肯定例 ピュアルネッサンス事件 東京地裁H24.5.16
役職:管理職(部長)として入社後、取締役、常務取締役、専務取締役へと順次選任
☝️ポイント
- タイムカードによる勤怠管理はあったが、他の従業員とは異なり手書きでの修正が許されていた
- パーティーや懇親会、麻雀などへの参加時間も労働時間としてタイムカードに打刻
- 業務量に比して労働時間が不自然に長時間であり、勤務時間中に業務以外のことをしていた事情がうかがえる
→管理監督者といえる
タイムカードは有力な資料になりますが、裁判所が見るのはそれだけではありません。 「出退勤時刻を自分で決められる」「シフトに縛られずに自ら調整できる」「会議・外出等が多く労働時間を会社が把握すること自体が難しい」といった観点から、実際に労働時間の管理を受けていたかどうかを判断します。
③待遇
管理監督者にふさわしい待遇があるかという判断基準です。
▶否定例 VESTA事件 東京地裁H24.8.30
役職:支店長(原告X1)
☝️ポイント
- 平均賃金額(当時33万円から36万円程度)よりも月額15万円前後高額の賃金を取得していた
- 他の従業員と同様に営業業務等を担当しながら、支店長としての業務も遂行していたことに照らせば、必ずしも高額ではない
→支店長は管理監督者といえない
▶肯定例 上記VESTA事件
役職:営業部長、その後、取締役(原告X2)
☝️ポイント
- 月額54万2000円から62万5000円
- 経営者に準ずる水準
→管理監督者といえる
基準として平均賃金が考慮されることが多いものの、いくら上回るかという明確な基準はありません。「一般社員より明確に高い給与」「残業代相当額を上回る役職手当」「責任に見合う処遇」が揃っているかどうかで総合的に判断します。
また後述しますが、管理監督者であっても深夜手当や有給休暇は保障されるところ、これら手当てが不十分な場合は、“裁量でなく拘束”と見る傾向があります。
自分は管理監督者?
過去の判例を参考に、自分が管理監督者にあたるかどうかをチェックしてみましょう。
チェックが半分(9個)以上当てはまる場合は、管理監督者ではないと判断され、残業代請求が認められる可能性があります。
□ 出退勤時刻は会社・上司に管理されている
□ シフト勤務で自由に変更できない
□ 遅刻・早退の申請が必要
□ タイムカードによる勤怠管理がある
□ 店舗や部署の営業時間に拘束されている
□ 業務内容は本部や上司の指示に従うだけ
□ 売上・予算の決定権がない
□ 店舗・部署運営の重要事項を自分で決められない
□ トラブル対応も上司の承認が必要
□ 経営会議や重要会議に参加していない
□ 部下の採用・配置・評価に関与していない
□ 面接に参加しても最終決定権がない
□ 部下の勤務態度や労務管理は実質的に人事部が行っている
□ 組織運営に関する重要な決定に関与していない
□ 役職手当が月数万円程度で、残業代相当額より低い
□ 一般社員と給与水準が大きく変わらない
□ 深夜勤務・休日勤務が多いのに手当がつかない
□ 役職手当が実質「固定残業代」のようになっている
管理監督者であっても必要な手当て

管理監督者であれば、全ての労基法規制から除外されるわけではありません。次の2つについては、健康維持の観点から一労働者としての権利が保障されます。
| 深夜手当 | 22時から翌5時までの労働については通常賃金の1.25倍以上の割増が必要(法37条4項) |
| 年次有給休暇 |
雇入れから6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤すると10日間が付与され(法39条1項)、その後勤務年数に応じて付与日数も増加し、6年6カ月以上勤務すれば最大20日間が付与(同条2項)される
|
企業が注意すべき点

安易に管理職を広げることは企業にとってもリスクがあります。
民事上のリスク
名ばかり管理職と判断された社員は “普通の労働者”に戻ります。その結果、残業代や割増された休日・深夜手当について過去3年分を遡って支払う必要が生じます。この時点で数百万円から数千万円規模になることも珍しくありません。
さらに厳しいのが付加金です。法114条により、裁判所は企業に未払い賃金と同額の付加金(民事制裁)を命じることができます。
刑事上のリスク
名ばかり管理職が発覚すると、労基署による是正勧告並びに是正報告書の提出、再調査が行われます。悪質なら送検へと進み、有罪となれば30万円以下の罰金刑の対象(119条1号)、企業名が公表されることもあります。
罰金刑もさることながら、労基署に一度入られると他の部署・他の労働条件まで徹底的に見られますから、日常業務に支障をきたす恐れがありますね。
企業の持続的成長
社員一人ひとりの役割や責任に見合った権限と待遇を整え、管理職が十分にマネジメント力を発揮できる環境をつくることが、企業の成長につながります。
「名ばかり管理職」を生まないことは、社員を守るためだけでなく、企業の持続的な成長を支える重要な経営課題といえるでしょう。



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