「養育費は月2万円でいいの⁉」
そんな疑問や不安が広がる中、2026年4月から法定養育費の制度がスタートします。しかし、その中身は決してシンプルではありません。
本記事では、
・2万円の理由
・新制度の趣旨
・実際の使い方
・見落としがちな注意点
についても解説します。
取決めがなくても請求できる養育費

これまで養育費は支払いを請求した時点から発生するというのが実務上の扱いでした。したがって、取決めがななければ養育費を支払わなくても法律上問題はありませんでした。
しかし、2026年4月1日から、離婚時に養育費の取決めをしていない場合でも、子ども一人あたり月2万円を請求できることになります(民法766条の3第1項)。これが「法定養育費」です。
養育費支払いの実態
まずは養育費の現状を見てみましょう。
厚生労働省の「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」によれば、離婚時に養育費の取決めをしている割合は、母子家庭で46.7%、父子家庭では28.3%、つまり、大半の離婚した夫婦が養育費について取決めをしていないということになります。
さらに厳しいのは実際の受給状況です。
「養育費を受けたことがない」割合が、母子家庭で56.9%、父子家庭では85.9%に上りました。
取決めがあっても支払いが続かない、もしくは、そもそも請求に至らないケースが少なくないことがうかがえますね。 養育費はしばしばその金額に注目が集まりますが、実際には「そもそも取決めがなされない」「請求が行われない」という根本的な問題があるのです。

なぜ「2万円」?
法定養育費の具体的な金額は法務省令で定められており、子ども1人につき月額2万円です。 実際に支払われている養育費の平均月額は、母子世帯で約50,485円、父子世帯:約26,992円(「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」)となっており、目下の物価高からも、月2万円では不十分というのは真っ当な意見でしょう。 パブリックコメントでは様々な金額の提案がありましたが(5000円から50万円まで)、今回なぜ2万円に落ち着いたのでしょうか?
省令案について法務省が行ったパブリックコメントでは約360件の意見が寄せられており、その中でもとくに目立ったのが「2万円では少なすぎる」という意見です。


〇親の子どもに対する「生活保持義務」(817条の12)の実現
民法には一定範囲の近親者が自力で生活を送ることができない場合に経済的に援助するという扶養義務(生活扶助義務・生活保持義務)が定められていますが、その中でも親が子どもに対して負うのが生活保持義務です。 もちろん最低ラインですから、その先は話し合いを促すという目的の「2万円」です。
「余裕があれば」という扶助義務とは異なり、生活保持義務は相手に自分と同じ生活水準を維持させる、いわば「一椀の飯も分かち合う」という強い内容の義務です。これが養育費の根拠であり、今改正ではこの生活保持義務が明文化されています。
これに合わせて導入されたのが法定養育費です。
取決めがなければゼロであった養育費を、とりあえず最低ラインは支払うことを定め、父母に子どもに対する生活保持義務を再確認させます。これが「2万円」です。

〇スピード感
相手の収入を問わない、計算不要、合意不要、そして調停や審判の手続も経ずに、法律を根拠にいきなり請求することができる金額設定が求められます。このスピードを実現するのに妥当な金額が「2万円」という判断であったのでしょう。
自動的には振り込まれず、請求が必要

SNS上では、「離婚すれば自動的に2万円が取られるのか」といった声も多く見られました。しかし、法定養育費は自動的に徴収されるものではなく、国が立て替えて支給してくれる制度でもありません。
確かに、法定養育費は離婚の成立と同時に発生しますが。受け取るためには非監護親から監護親へと実際に支払われる必要があります。
そのため任意に支払われない場合は、監護親は相手に対して請求しなければなりません。
内容証明郵便による請求
非監護親に伝える内容は、まず法定養育費を支払うこと、そして正式な養育費について今後話し合うことの確認です。
電話やメール等でも構いませんが、証拠として残るように内容証明郵便を利用します。
内容証明郵便により養育費に関する協議の開始が記録され、後の家庭裁判所の審判等における資料となります。
なお、書き方については弁護士に依頼するほか、法テラスの無料相談等を利用して自分で作成することもできます。
相手の給与を差押さえたい

自ら定めた養育費ですら支払わないケースは珍しくなく、法定養育費でもその可能性は十分予想されます。
判決や公正証書がなくても強制執行が可能~先取特権
今改正では養育費を実際に回収しやすくする仕組みも整備されました。その目玉が「先取特権」です。先取特権とは、簡単に言えば、他の借金よりも優先してお金を回収できる権利(担保権)です。
〇優先弁済的効力
例えば、相手が奨学金やカードローン等複数の借金を抱えている場合、どの債権者が優先して支払いを受けるかは法律で決まっています。これまでは養育費は高い順位にありませんでしたが、今改正では、共益費用、雇用関係に次いで3位にランク付けされています(306条3号)。
〇物上代位効
先取特権があれば、債務者の給与や不動産等の財産を直接差押えることができます。抵当権とは異なり先取特権は法定担保物件ですから、担保権設定契約や登記はいらず、また、裁判所の判決や審判調書等の債務名義も不要、いきなりの差押えが可能となります。
〇上限8万円
ただし、無制限に差押えられるわけではありません。308条の2に規定する法務省令では、子ども1人につき月8万円を上限としています。
注目は法定養育費の2万円より高く設定されている点です。
これは法定養育費だけでなく、父母の話し合いや家庭裁判所の審判によって2万円より高い養育費が定められる場合にも対応できるようにするためです。
財産開示・第三者からの情報取得~差押までワンストップ
養育費請求においてよく問題となるのが、相手の勤務先や口座がわからないケースです。改正ではこの点についても対応がなされています。
従来の制度では、まず裁判所に対して財産開示手続を申立て、さらに必要に応じて金融機関や勤務先等の第三者からの情報取得手続を個別に申立て、それらを経て差押命令手続を申立てるという流れになります。このように手続きが分散しているため、時間や費用の負担が大きく、実際には利用が進まないという指摘もありました。
〇改正民事執行法
そこで民事執行法(167条の17)では、これらを1回の手続によって連続して行えるようになります。
↓
②財産開示手続が進む
↓
③相手が開示しない場合、自動的に裁判所が市町村へ情報提供を命令する
↓
④勤務先や預貯金が判明したら、追加申立てを待たずそのまま差押命令の発令へと進む
これなら相手に財産を隠す隙を与えず、申立てる側の負担も大幅に軽減されますね。
とはいえ、月2万円の法定養育費のために裁判所の手続をとるのは現実的ではありません。やはりここでの主眼も父母の協議で得られた正式な養育費であり、ワンストップ手続きも協議による養育費回収を狙ったものと言えます。
法定養育費に関する注意点

法定養育費にはいくつか注意点があります。制度を利用する際に知っておきたいポイントを整理しました。
法定養育費が発生する離婚
法定養育費は2026年4月1日以降に成立した離婚について認められます。これより前に成立した離婚には遡及適用されないため、従来通り話し合って決める必要があります。
離婚時に養育費について取決めをしなかった場合に限ります。
離婚協議書や公正証書で金額を決めている場合は当然、口約束であってもその内容が優先されるため、法定養育費は発生しません。金額が少ないと考える場合は、家庭裁判所に増額調停の申立てを検討しましょう。
支払いが認められる期間
法定養育費は離婚の日(届出日)から発生し、次のいずれかの日が到来するまで支払わなくてはいけません。
・養育費分担について審判が確定した日
・子どもが成年(18歳)に達した日
なお、離婚成立後にその時点で支払われていない金額をまとめて支払うよう求めることができます。たとえば2026年5月1日に離婚したとして、2027年1月時点で請求する場合は2026年5月1日に遡り同年5月分から請求できます。
また、将来にわたる期間の法定養育費を請求することも可能ですが、たとえば成年後となる大学卒業時までのカバーを希望する場合は、やはり協議が必要になります。
支払いを拒否されることも
支払う側に十分な支払能力がなく、養育費を負担すると生活が著しく困窮してしまう場合には、支払いを拒むことが認められることがあります。また、家庭裁判所は義務者の経済状況を考慮し、養育費の全部または一部の免除や支払いの猶予などを命じることもあります(766条の3第3項)。
法定養育費といえども、「ない袖は振れぬ」ケースがある点に注意が必要です。
法定養育費は暫定的なもの~正式な額については話し合いを
「2万円」「いきなり差押え」とインパクトのある法定養育費ですが、金額や適用範囲に限界があり万能の制度ではありません。それでも先取特権化や差押手続きの整備によって、養育費の支払いを実効的に確保する方向へと前進した点に、今回の改正の意義があります。
子どもの利益を守るための養育費は、「養育費算定表」に基づき父母が話し合って決めるという基本は変わりません。
法定養育費はその入口にすぎず、最終的には個別の事情に応じた判断が必要になります。判断に迷う場合には弁護士に相談するのも有効な手段です。


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