株式会社REVOLUTION(レボリューション)が、導入からわずか数か月で株主優待制度を廃止したことが波紋を広げています。
優待を一度も実施しないまま廃止を発表した結果、株価は急落し、社長は引責辞任。投資家の間では「これは詐欺ではないのか?」という声も上がっています。
本記事では、この騒動をもとに
・REV社の優待廃止騒動
・詐欺罪の成否
・有価証券報告書虚偽記載
・株主平等原則
・一般投資家の注意すべき点
について法律・経営の観点から解説していきます。
株主優待制度とは

まず内容を確認します。
内容
株主優待制度とは、毎事業年度一定の時期に株主に対して金品(商品や会社のサービスを利用するための優待券など)を交付することです。
日本にいると当然ある制度であるように思われますが、実はアメリカの株等にはなく、日本独自の制度です。
2024年には全上場企業の約3社に1社が導入している株主優待ですが、実は会社法には株主優待に関する規定がありません。その法的性質は会社から株主に対して行われる「贈与」であり、制度設計や導入・廃止も取締役が決めます。
〇ユニークな株主優待
優待内容では自社商品の詰め合わせや優待券、QUOカードが人気ですが、中にはユニークなサービスもあります。いくつか紹介しましょう。
・交通傷害保険の付保/トピー工業
・太陽光発電システムや蓄電池を無償で設置する権利(抽選方式)/エプコ
・暗号資産/ SBIホールディングス
・限定の「トミカ」「リカちゃん」/タカラトミー
・クルーズ優待/商船三井
配当金との違い
一方、よく似たものに配当金(剰余金の配当)があります。
こちらは会社が儲けた利益を会社の所有者である株主が分け合うもので、株主には当然の権利です。したがって、剰余金配当をするのかどうか、配当するなら何を・いつといった事項は、原則として株主総会が決めます(会社法453条)。
それ以外にも分配可能額(461条1項)、株主平等原則(454条3項)など、会社法には配当金に関しては厳格な規制を設けています。
このように剰余金配当とよく対比される株主優待ですが、両者の相違点やリスクを顧みず、取締役の安易な判断で優待制度を乱用したのがREVOLUTION騒動です。
REVOLUTION株主優待騒動

株式会社REVOLUTION(以下REV社と言います)は1986年に設立された不動産再販を中心とする不動産テック企業です。事案の内容を紹介します。
概要
事の発端はREV社による株式交付を用いたWeCapital社の買収です。
買収に際してREV社の株が1:12,429の比率でWe社株主に割り当てられますが、交付された株式のうち50%に譲渡制限がされており、残りは自由に譲渡できるものでした。
このタイミングで導入されたのが、年12万円(優待利回り約14%)のQUOカードPayを付与する株主優待制です(発表前株価418円)。
インパクトある優待が話題となり株価は急上昇、REV社株に投資家が殺到します。株価が上昇を続ける中(一時700円超え)、譲渡制限のないWe社株主が保有株を次々と売却、これを取得した株主が急増し、当初想定の1,100名程度から9,930名にまで膨らみました。その結果、優待に必要な原資は11.9億円に達し、会社の預貯金残高(2.8億円)では全く足りないという事態に陥ってしまいます。
その後、優待は一度も実施されることなく廃止、株価は急落、社長が引責辞任するという騒ぎとなりました。
詐欺罪は成立する?

優待発表後の株価は600円台で推移していたのが優待廃止時には100円を切ってましたから、高値で購入した株主の中には大損した人も多いのでは?
ええ、株価が高騰すれば多くの資金が会社に集まることになりますから、REV社は実体のない嘘の運用計画で不当に資金を集めた可能性があります。
詐欺罪
そこで詐欺罪が成立するのではないかが問題となります。
| 【詐欺罪の成立要件】
あ 欺罔行為(相手を騙すための嘘がある) |
詐欺罪では騙された人と実際に損害を受けた人は一致する必要はありませんが、騙す段階から最終的な利益領得に至るまで、およその経過を行為者が認識している必要があります(故意)。
つまり、たまたまついた嘘によって誰かが得をしたというだけでは詐欺罪は成立しないということですね。
詐欺罪などの財産犯では加害者の「故意」を立証するのが非常に難しいため(典型的には、ファンド詐欺のような事案で、数回でも配当金を出していると故意が認定されにくい。)、証拠収集は慎重に行われます。とくに会社組織では、誰がどのような経緯でどんな判断や行動をしたのかを細かく洗い出す必要があります。不当な資金集めを画する会議や指示の記録が残っていれば話は別ですが、単に損失が出たというだけで「詐欺」と断定すると、合理的な経営判断まで萎縮させてしまうからです。
第三者委員会報告書
この点について第三者委員会の調査では、当時の代表取締役社長は株主優待を実施しても財務内容に問題はないという試算のもとに株主優待を公表しており、初めから優待を実施するつもりはなかったとは認められないという結論を導いています。具体的な証拠が登場しない以上、やむをえない判断でしょう。
したがって、詐欺罪が成立する可能性は低いと思われます。
金融商品取引法違反
詐欺罪以外にも刑罰の可能性があります。
〇有価証券報告書の虚偽記載(197条1項1号、207条1項1号)
証券取引所に上場する株式公開企業等は、内閣総理大臣(金融庁)への「有価証券報告書」提出が義務付けられています(24条)。一般投資家はIR資料を通じてその内容を閲覧し、優待制度の概要も確認できます。
このようにステークホルダーにとって重要な報告書ですが、同法は「重要な事項」について虚偽記載や記入漏れがあった場合を刑罰の対象としています。「重要な事項」とは、一般投資者の合理的な投資判断に重要な要素を指します。
違反すれば、役員等は10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(併科可)、法人は7億円以下の罰金です。
REV社の場合、実施意思がないのに優待制度を導入すると報告書に記載したとすれば、投資家の正確な判断機会を奪った点で、虚偽記載に該当する可能性があります。ただし、こちらも実施意思をめぐる証拠が必要で、立証は難しそうです
損害賠償責任
刑罰以外にも損害賠償というペナルティの可能性があります。
① 株主平等原則
株主優待では「保有株式数100株までの株主には商品券5枚、1000株までの株主には商品券10枚」といった条件設定が多く見られます。
このような段階方式が株主平等原則(会社法109条1項)に抵触する恐れがあります。
会社は保有する株式の内容や数に応じて株主を平等に扱わなければなりません(株主平等原則)。上記例では101株の株主と999株の株主を同じに扱うことになり、この平等原則に反するおそれがあるのです。
〇例外
ただし実務上、以下の条件を満たす限りにおいて同原則には反しないとされています。
・金額が比較的少額である
・制度の内容が相当程度に周知されており株主に不測の損害を与えない
REV社の「2000株以上を保有し、かつ2回以上連続で株主名簿に記載または記録された株主にQUOカードPay6万円分(年間12万円分)を贈呈する」という内容は、形式的には平等原則に反します。
では、例外にあたるのでしょうか?
タイミング的にWe社株主への株式交付と重なります。しかも株式割当比率が1:12,429という通常では考えられない規模で行われ、これによりREV社既存株主の持ち株比率が限りなく0に近づくことになります。そこでREV社株価を吊り上げるために、目立つ優待制度で人気を集めようと考えたのかもしれません。優待であれば社長の判断で実施可能です。
であれば、株価吊り上げ目的に合理性はなく、事業とは関係の薄いQUOカードPayの贈呈、しかも金額も小さくありません。条件も二転三転しており、不安を感じた株主も多かったでしょう。
したがって例外要件を満たさず、株主平等原則違反にあたる可能性が高いでしょう。
② 取締役らの善管注意義務違反
優待発表後に度重なる条件変更を行いつつも、社長自ら「優待については安心してください」と述べています。このような発信が株主の意思決定に影響を及ぼす可能性に無頓着であったと言う他ありません。
また、優待制度設計時に専門法律事務所から法的リスクの指摘があったにもかかわらず、取締役会で十分に議論されませんでした。
これでは第三者委員会報告書にもあるように、「場当たり的で拙速な経営判断」「取締役会の審議・検討のプロセスを軽視し、内部統制への意識が希薄」と断じられてもやむをえないでしょう。
これは取締役らの会社に対する任務懈怠責任(会社法423条1項)を示唆しています。
2025年9月、REV社は当時の代表取締役に対して善管注意義務違反(会社法330条、民法644条、会社法355条)により企業価値が毀損したとして損害賠償請求訴訟(約17億円請求のうち、まず1億円)を提起しました。
会社が役員個人の責任を追及するものですから、当然会社は肩代わりしません。ある意味、詐欺罪で収監されるより重いかもしれません。
一般投資家が注意すべきこと

株主優待は株に付加価値をもたらす魅力的な仕組みですが、そこに惑わされないために、一般投資家が気をつけたい点をまとめます。
① 優待の内容と条件をよく確認する
優待利回りが異様に高い、頻繁に条件変更や廃止が行われる銘柄は要注意です。優待制度はおまけではなく、企業姿勢のあらわれとして冷静に判断しましょう。
② 業績や財務内容をチェックする
どんなに豪華な優待でも、企業の体力が続かなければ意味がありません。決算報告書やIR資料に目を通し、売上や利益、自己資本比率など基本指標を確認します。
③ 同業他社もチェックしてみる
個別企業だけでなく、業界全体の流れを見ることも重要です。同業他社の優待内容や業績を比較すれば、その会社の位置づけが見えてきます。
④ 長期保有を基本に考える
短期的な成果を狙う投資は、どうしても優待の派手さに目が行きがちです。
しかし、企業との信頼関係を意識し、長期保有を基軸にすることが安定的な成果につながります。
優待は企業の「長く応援してほしい」というメッセージです。投資家もその姿勢に応えることが、本来の株主優待文化を守ることになります。


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