X(旧Twitter)やTikTok等のSNS上で横行するなりすましアカウント。最近では一般人がターゲットになるケースが増えています。
本記事では、
・なりすましの実態・心理や被害の特徴
・違法性
・被害の対応
・なりすまし防止策
について解説します。
SNSアカウントの「なりすまし」とは
「なりすまし」とは、一般には第三者(別人)のように振る舞う行為を指します。
ここではインターネット上のなりすましについて解説していきます。
具体例
近時話題となった事例を紹介しましょう。
〇偽広告による詐欺被害
実業家の前澤友作氏等、有名人の名前や顔写真を使ったバナー広告がSNSに表示され、「日本株で10倍儲かる」「この三銘柄を狙え」といった煽り文句と共に、不審な外部リンクへ誘導します。そこで無料講義や成功者の声を紹介された視聴者が少額を入金すると、実際に利益を得るなどして信用させます。その後、高額出資したら連絡がつかなくなるパターンです。
令和7年7月時点でSNS型投資詐欺の年間被害額は464.6億円です。なりすまされた有名人本人も注意喚起をしていますが被害は後を絶ちません。
〇アカウントの乗っ取り
人気お笑いコンビ「アインシュタイン」稲田直樹さんのインスタグラムアカウントを乗っ取ったとして、男性(32)が不正アクセス禁止法違反の疑いで逮捕されました。
容疑者は稲田さんの生年月日やアカウント名からパスワードを推測、16回にわたり不正アクセスした疑いが持たれています。乗っ取ったアカウントにより「番組の企画」として、ダイレクトメッセージで女性に性的画像を要求していました。
〇偽アカウントを利用したいじめ
熊本県では女子生徒が小6から中3にかけて、SNSで100以上の偽アカウントを作成し、架空の人物になりすまし「死ぬかもしれない」「お前を殺しに行く」などと脅迫、被害者3人に金銭要求や行動制限していました。被害者2人から数十回にわたり約18万円を脅し取っていたということです。
アカウントって一人で100以上も作れるんですね…恐ろしいです。
なりすましの特徴
SNS上のなりすましには次のような特徴があります。
〇犯罪目的
上記のように、有名人になりすますことによって、その影響力を背景に用意に詐欺行為を行うことができる場合があります。
また、一般人のアカウントを乗っ取ることによって、そのアカウントと繋がっている友人が、友人本人からの連絡と誤信することを利用して、詐欺行為を行う場合もあります。
〇なりすましの心理
なりすましには次の感情が根底にあると考えられます。
承認欲求や劣等感:自己顕示欲から他人の名前や写真を使って自分以上の注目や信頼を得ようとし、また、自分への自信のなさから「別の自分」として人間関係を築こうとすることがあります。
遊び感覚:匿名性の高いネット環境から生まれる「バレないだろう」「どこまでやれるか試したい」といったゲーム感覚や優越感が罪の意識を鈍らせます。
攻撃的、支配的な構造:ネット上のみで関わる者同士に主従関係が形成されると抜け出しにくく、上位に立つ側は力を誇示しようとする傾向がさらに強まります。
特にいじめや詐欺ではこの支配欲や攻撃性が顕著に現れます。
〇なりすましの影響
一度拡散された虚偽情報は瞬く間に数万の人々に届き、収拾不可能となります。さらに匿名性が高いため加害者の特定が難しく、悪意ある発信者が責任を回避する余地を残してしまいます。
SNSアカウントなりすましの違法性 犯罪になる?
なりすましの違法性について検討します。
犯罪
だれかになりすますこと自体は犯罪ではありません。モノマネや仮装がその典型です。
しかし、他人名義で事実証明に関する書面を作成すれば文書偽造罪に、他人の著作物を自分のものとして利用すれば著作権法違反となるように、実利を伴う行為は犯罪と無縁でなくなります。
さらにSNS上でのなりすましは、その態様によって様々な犯罪に発展する可能性があります。
〇名誉棄損罪(刑法230条)
なりすまし犯が公然と特定の個人や団体の事実を摘示して名誉を侵害した場合、名誉毀損罪が成立します。
SNS上で特定個人になりすまし「私は職場で不倫している」と投稿、または偽アカウントで「○○は万引きの前科がある」と指摘するケースです。
内容の真偽は関係なく、事実であっても名誉毀損罪に該当する可能性があります。
また親告罪であり、被害者が告訴しなければ検察は起訴できません。
〇侮辱罪(刑法231条)
事実を摘示しなくても、公然と特定の個人や団体を侮辱すれば侮辱罪となります。
なりすましや偽アカウントを用い、SNSで「頭悪い」「クズ」などと投稿する行為です。なお、侮辱罪も親告罪です。
〇電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)
インターネットで人を欺き財産上の利益を得れば、電子計算機使用詐欺罪です。
なりすましで他人名義を用いて商品やサービスを購入したり、不正に口座へ送金させたりする場合が該当します。
〇業務妨害罪・信用棄損罪(刑法233条)
他人の信用や業務を妨害した場合、業務妨害罪や信用毀損罪が成立する可能性があります。
たとえば会社関係者を装い虚偽情報を発信し、会社の業務が妨害されたり信用が損なわれたりする場合です。
〇不正アクセス禁止法(同法11条)
他人のコンピューターやシステムに対して権限なくアクセスする行為は不正アクセス禁止法違反となります。
他人のIDやパスワードを不正に取得してSNSアカウントを乗っ取る行為や、不正アクセスするための情報を不正に取得・保管する行為も違反にあたります。
不法行為責任(民法709条)
さらに民事責任の対象にもなります。
〇誹謗中傷や詐欺の被害者
偽アカウントの投稿等による誹謗中傷や財産的損害を受けた被害者が、なりすまし犯に対して慰謝料等の損害賠償請求できるのは当然のことです。
〇なりすましされた被害者
アカウントを乗っ取られた個人や団体(なりすまされた側)も損害賠償請求できる可能性があります。
すなわち、なりすまし投稿によって「誹謗中傷する人物だと思われてしまう」ことを理由に名誉権侵害となるのです。
大阪地判平29年8月30日を紹介しましょう。
Aのアカウント名とプロフィール画像の顔写真を使用して「A」になりすました甲が、SNS上の掲示板において他の利用者(B)に向けて「妄想おばあちゃん全開ですよ~」「お前の性格の醜さは,みなが知った事だろう ww ヒャッハー*¥(^o^)/」等と罵声を浴びせて名誉毀損的発言を行い、他の利用者に対しても「ザコを片っ端からアク禁した」「キチ集団 w」などと投稿して、差別用語や侮蔑表現を用いて罵倒していたという事案です。 |
裁判所は「第三者に対し、原告(なりすましされた側)が他者を根拠なく侮辱や罵倒して本件掲示板の場を乱す人間であるかのような誤解を与えるものであるといえるから、原告の社会的評価を低下させ、その名誉権を侵害しているというべきである」として、およそ130万円(慰謝料60万円、発信者情報取得費用58万6000円を含む)の支払義務を認めました。
なりすましの被害に遭ったら
なりすまし被害に気付いた時にやるべき事は、アカウントの取戻しではなく、アカウントの悪用防止です。
証拠の確保
まずは証拠の確保です。
通報する、法的措置をとる、いずれにしても具体的な証拠が不可欠です。
ただし削除される可能性があるため、発見した時点ですぐに保存する必要があります。保存はスクリーンショットを利用するといいでしょう。
・投稿の内容、画像、動画
・投稿日時
・投稿のURL、スレッド名
・引用や返信投稿
なりすましの通報
被害拡大防止のため、迅速にアカウントの凍結や削除の申請手続きを進めます。
各SNSにはなりすまし報告の専用フォームが用意されています。
直接、当該会社の担当者に連絡して、実態を報告したいところですが、このようなアメリカ等由来のSNS会社は、なかなか担当者と直接アクセスすることができません。
このような対応しかないことも、なりすまし被害が拡大している要因となっているように思いますね。
X | |
TikTok | |
周囲の利用者への注意喚起
乗っ取られたアカウントから友人や家族に不審なメッセージが送られている可能性があります。SNS上で状況説明や直接連絡をとるなどして、メッセージには反応しないよう呼びかけます。
逆に、友人のアカウントから、いつもの本人とは違うような言葉遣いのDM等が送られてきたら、返信等しないように注意しましょう。また、URL等が貼られていても、クリックしないようにしましょう。フィッシングに遭う恐れがあります。
アカウントの特定
慰謝料請求や刑事告訴する場合はなりすまし犯の特定を行う必要があります。そこで、裁判所に対して発信者情報開示命令の申立手続きを執ります。
まずはサイト管理者を相手にIPアドレス等の開示請求を行い、開示されたIPアドレスから通信に用いられたプロバイダを特定します。そのプロバイダを相手取って発信者情報開示請求を行うという二段階の作業で行います。
最近では、発信者情報開示請求の法律の改正により、より簡易に法的手続がとれるようになりました。
警察や弁護士に相談
自身のアカウントが詐欺サイトとして利用されているようで身に覚えのないクレームが多数入る、知人らになりすましメールが送り付けられているといった場合は、警察が相談に応じてくれます。
さらに発信者情報開示請求では早期の弁護士への相談が手続きの迅速性・成功率を高めますが、その際には警察へのアクセスについても相談するいいでしょう。
SNSアカウントなりすましへの対策
一般人をターゲットにしたなりすましは「目立つ」ことよりも「油断」を狙っています。そこで対策として以下のものがあります。
強力なパスワード
英数字や記号を組み合わせ、推測されにくいものを使用しましょう。パスワードの使い回しも避けたいところです。
二段階認証
IDとパスワードの他に、SMS等に届くコードを入力するという二段階による認証を設定します。またログイン通知機能を設定すれば、不審ログインにすぐ気付くことができます。
定期チェック
一般人でも検索エンジンとSNSの両方でエゴサーチをすることをおすすめします。
加えて、SNSや各種サービスのプライバシー設定の定期チェックを行い、自分の情報が公開されすぎていないかを確認することも欠かせません。
これらを習慣化することで、なりすまし被害のリスクを大幅に減らすことができます。
もしSNSのなりすまし被害に遭われた場合、自身でできる対策を早急に打ち、実害が出てしまっている場合は弁護士や警察に相談することをおすすめします。
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