リクルートブライダル総研が行った『婚活実態調査2022』によりますと、恋愛や結婚意向がある恋人のいない独身者の4人に1人が婚活サービスの利用経験があり、中でも人気が高いのがマッチングアプリや出会い系サイトといったネット系婚活サービスです。
ネット系婚活サービスは手軽に利用できる反面、思いもよらぬ法的トラブルに巻き込まれる可能性があります。
本記事では
・実際にあったマッチングアプリの法的トラブル
・法的トラブルがあったときの相談先
をまず紹介します。
そしてトラブルに遭った場合の
・被害回復方法
・被害回復をするための証拠
・マッチングアプリ利用の注意点
についても解説していきます。
学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。
マッチングアプリの法的トラブル集
実際にあったトラブルの数々を紹介します。
サクラ
2017年10月、60代の男性が出会い系サイトにおいて運営側が仕掛けた「サクラ」である女性と何度も連絡を取り合うも会うことはなく、課金総額が3年間で約5,000万円にも及んだ事件が報告されています。
詐欺
2021年10月にはマッチングアプリで出会った高齢男性から1600万円を騙し取ったとして、女(27歳)と男(50歳)が詐欺容疑で逮捕されています。
女は『奨学金や銀行のカードローンの返済がある』と高齢男性をターゲットに金を借りるも返済せず、被害者は他に40人(60代~79歳)以上、被害総額は3億円にのぼるとみられています。
強制わいせつ目的
2022年5月、マッチングアプリで知り合った女性に対してカラオケ店で体を触るなどした強制わいせつ容疑で、名古屋市の男性職員が逮捕されました。
その後、男性職員は示談が成立して不起訴処分となるも、懲戒免職処分を受けています。
誹謗中傷、暴言
交際を断られた腹いせに「ふざけんな!」「時間返せ」「ブス」といった暴言を吐くケースから、関係解消後にインターネット上に相手の氏名や住所地、学歴、勤務先、顔写真を貼り付け、「サイコパス野郎」「性犯罪者」と繰り返し投稿した結果、慰謝料請求訴訟にまで発展したケースもあります(東京地判R2.12.18)。
ストーカー
2019年5月に発生した保育園児2人が死亡する交通事故の公判係属中に、その被告人(女 53歳)が出会い系サイトで知り合った男性の職場に10回以上も電話をかけて会うことを強要したとして、ストーカー規制法違反などの疑いで逮捕されたことが話題になりました。
投資、宗教等の勧誘
59歳男性が2021年10月にマッチングアプリで知り合った外国籍の女からメッセンジャーアプリで暗号資産を利用した投資話を勧められ、税負担分と指示され送金を度重ねた結果、約8か月間に暗号資産計約1億4700万円分を騙し取られたという事件が発生しています。
プロフィールの詐称
既婚者が独身を装うのが典型ですが、2021年4月には45人もの女性と同時交際、各々にプレゼントを購入させたりマルチ商法を持ちかけたりして、39歳男が詐欺容疑で逮捕されています。
プロフィールには「経営コンサルタント」「年収600万円以上」とウソを登録し、中小企業診断士等20~30の資格、さらには象の調教師の資格もあると話していたようですが、被害に遭った女性たちがネット上で情報交換しているうちに事実が明らかになりました。
マッチングアプリにおける法律トラブルの相談先
トラブルにあった場合はまずアプリ等の運営側に相談することを検討します。規約に従ってブロックや非表示、通報後に強制退会等の措置がとられるでしょう。
しかし、これらの措置では不十分な場合は外部への相談が必要になります。
ここでは運営以外の相談先について確認します。
消費者センター
マッチングアプリをはじめとするネットサービスに関するトラブルについては、国民生活センターを中心とした各地の消費生活センターで相談することができます。
被害回復に向けた一般的なアドバイスが受けられるほか、相手が事業者であるトラブルについては裁判外紛争解決手続(ADR)を用いた解決のサポートも期待できます。
警察
お金を騙し取られた、脅迫された、無理やり性交させられた、名誉を傷つけられたといった場合は速やかに警察に相談しましょう。
これらの行為は言うまでもなく、詐欺罪(刑法246条。10年以下の懲役。)、脅迫罪(刑法222条。2年以下の懲役または30万円以下の罰金)、不同意性交罪(刑法177条。5年以上の懲役)、名誉棄損罪(刑法230条。3年以下の懲役若しくは禁固または50万円以下の罰金)等が成立する場合があります。 また被害が生じていなくても、執拗な勧誘で金員を要求されたり飲食物に何かを入れられそうになったりした場合も相談することをお勧めします。
捜査が開始されれば必要に応じて容疑者は逮捕されますが、相談時にはメール履歴や入金明細等の被害の証拠となるものを提示できることが望ましいので、これらの証拠となり得るものはできるだけ保存しておきましょう。
弁護士
渡したお金を取り返したい、慰謝料を請求したいといった民事責任を追及する場合は弁護士です。また刑事事件として警察に告訴する場合にも告訴状の作成や提出の同行を任せることができます。
被害を回復するにはまずは相手と話し合う必要がありますが、結論が出なければ裁判へと発展していきます。
いずれの場面でも法的根拠に基づく請求を行い、かつそれを裏付ける証拠が重要となります。
以下、詳しく見ていきましょう。
被害を回復する方法と証拠
被害を回復する具体的な方法と証拠について解説します。
方法
被害を回復する方法としては、特定商取引法のクーリングオフ(特定商取引法48条)、消費者契約法の取消(消費者契約法4条以下)、民法の詐欺錯誤取消(民法95条、96条1項)のように契約をリセットして相手に渡った利益を返してもらう方法(不当利得返還請求)と、慰謝料のように被害に相当する賠償金を支払ってもらう方法(不法行為に基づく損害賠償請求)があります。
それぞれの期間と通知方法についてまとめました。
期間 | 通知方法 | |
クーリングオフ (特定商取引法) |
・エステ、割賦販売等 8日 ・投資顧問契約 10日 ・預託取引契約(現物まがい商法)14日 ・マルチ商法等 20日 |
契約した事業者(クレジット契約の場合はカード会社も含む)に対して、書面(ハガキ可、但しコピーで保存)または電磁的記録で通知する
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消費者契約法の取消 | ・追認できるときから1年 ・契約締結時から5年 |
書面(特定記録郵便や簡易書留)によるのが望ましい
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詐欺・錯誤取消 | ・追認できるときから5年 ・行為のときから20年 |
書面(内容証明郵便)によるのが望ましい
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慰謝料請求 | ・被害者がその損害や加害者を知った日から3年 ・行為のときから20年 |
証拠
クーリングオフであれば契約情報を記載した書面等により通知すればよく、特に証拠を準備する必要はありませんが、契約の取消や慰謝料請求する場合は自分の主張を裏付ける証拠を準備しなければなりません。
たとえば独身者限定アプリで知り合い結婚を前提に交際を始めたところ相手が既婚であることが判明した場合、貞操権侵害を理由とした慰謝料を請求するケースを想定しましょう。
「故意」と「被害」
この場合に揃えるべき証拠は、相手のウソ(故意)と肉体関係の事実(貞操権侵害)についてです。このうち肉体関係に関する証拠には写真や動画、LINEやメール、ラブホテルの領収書などがあります。
一方、相手のウソについてはアプリ上のプロフィール欄の虚偽を記載したことや当該アプリの規約に反して登録したという事実が有力な証拠となります。
つまりネット系婚活サービスは従来の結婚詐欺と比較すると、相手の故意に関する証拠が残りやすいという点に留意すべきです。
23条照会、発信者情報開示請求
そこでプロフィール欄を予めスクショしておくことが望ましいです。
かならず最初にプロフィール欄をスクリーンショットする癖をつけておくと良いかもしれません。
保存していなかった場合や相手が退会済みの場合、さらには全くのニセ情報で相手の特定ができないといった場合でも諦める必要はありません。
弁護士であれば、弁護士会を通した23条照会によりアプリ運営会社に対して会員や退会者の情報提供を依頼することができます。
また相手の特定ができない場合は裁判所を通じて発信者情報開示請求をすることも可能です。
いずれもデータの保存にタイムリミットがあり、請求権自体の時効もあるので、取り急ぎ弁護士に相談すべきでしょう。
既婚者だけではない!年齢や職業・収入を偽った場合
年齢や経歴、収入等を偽った場合はどうでしょうか?
相手のウソに対して慰謝料請求が認められるかどうかは、そのウソが騙された側の意思決定をどの程度侵害したのかという視点からも考慮しなければなりません。
この点、経歴や収入といった条件は既婚者であることとは異なり、男女の交際や結婚においては根本的な要素とはいえません。きっかけはどうであれ、会っているうちに情が芽生え性交渉に及んだ場合は、職業や収入に関するウソが相手の性的自己決定権を侵害するとまでは言えないのが一般的でしょう。
ただし「医師」「高収入」等の限定アプリでは、紹介される相手は適合者のみ、交際や結婚に向けて合目的的に行動できると利用者は考えるのが通常であり、それゆえ高額の入会金を支払っているはずです。
そこに潜り込んだ不適合者が利用者の誤解に乗じ、その後訂正することなく誤解を強めるような言動を繰り返した上で性交渉に及んだ場合は、社会的に相当とはいえず、性的自己決定権侵害を理由に慰謝料の対象となる可能性があります。
したがってプロフィール欄だけでなく、交際開始後の言動を示す証拠(私生活や職業をアピールする写真やメール、知人らの証言など)も準備しておくべきです。
アプリでの婚活もなかなか大変ですね・・・。
まとめ|被害に遭わないためのポイント
マッチングアプリは誰でも気軽に利用することができますが、危険な人物が紛れ込む、又は当該アプリ自体に問題があるケースもあります。
そこで利用する際に注意すべきポイントを以下にまとめました。
・「サクラ」対策のため無料の婚活サービスには登録しない
・利用規約や料金システムを確認する
・プロフィール欄、やりとりしたチャットやメッセージを保存しておく
・会う前には電話で通話して相手の全体的な印象を確かめる
・会う場合は時間や場所に注意する
・不審に感じたら家族や相談窓口等の第三者に相談する
・自分の個人情報を大切にする
マッチングアプリには様々なリスクがあることを十分に意識した上で、上手に活用したいですね。