コロナで対面授業なしは債務不履行!?明星訴訟は改正民法415条に注目 

弁護士 櫻井俊宏
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学校法人中央大学の法実務カウンセル(インハウスロイヤー)として、中央大学の学内法務全般を担当して9年になる、千代田区・青梅市の弁護士法人アズバーズ,代表弁護士の櫻井俊宏です。

明星大学生が、遂に、コロナ禍でオンライン授業ばかりで対面授業をしないのは「義務不履行(債務不履行)」だとして、明星大学に訴訟を提起するとのことです。
対面授業なしは「義務不履行」学生が明星大を提訴へ yahoo!

学生団体による集団訴訟かと思いきや、単独の学生のよるもののようでびっくりしました。
民法415条(債務不履行)が改正された部分とも関わりそうで、かなり注目です。

以前、早稲田大学がコロナ問題下において、今年の学費をどうするかについて意見を表明した件を説明した上で、本訴訟で何が問題になるかも解説します。

1 コロナ禍の大学と早稲田大学の意見表明

コロナ問題で、ほとんどの大学は、公共団体の要請により、「3密」を避けるため、学生が完全に入れないようになっていました。
その上で、オンラインの講義や教材等で学生に教育を提供していました。
ということは、学生は教育は受けているものの、図書館等の大学の施設を利用できない状況にあったということです。

これに対して、学生達は、学費を返還するように署名活動を行っているという話もあります。
借金をして大学に来ている学生、アルバイトができず困っている学生も多くおり、無理もない話ではあります。

一部の大学は,5~10万程度のお金を支援金名目で学生に給付しています。

そのような中、早稲田大学は、2020年の学費について意見表明をしました。
詳しくは本記事の最後にリンクしている実際の学長の文章を見てもらいたいです。

  1. 早稲田大学としては、学費というものは常に一律のものであるとまず説明しているように読めます。
  2. その上で、オンラインや電子書籍の仕組み等を充実させており、それによって多額の費用がかかっているが、学費に上乗せしておらず、やはり一律に取り扱っていることを説明しています。
  3. そのような状況の中、大学はコロナ情勢に対応して最善を尽くしていることを話し、学生達に理解を求めています。

2 コロナ禍での学費に関する法的問題

早稲田大学の意見はともかくとして、実際、通常はどこの大学でも入学前のパンフレット等で「図書館の利用」や「対面での講義」について説明しているので、今のオンライン講義や図書館が利用できないことが、大学側が在学契約(学生と大学との間の契約のことを言います。)を果たしておらず契約違反(債務不履行)であると言えるかが問題となるのでしょう。

これについては、下記の入学金返還訴訟で有名な最高裁判例の「在学契約」というものの説明が参考になります。

最高裁平成18年11月27日判例
大学(短期大学を含む。以下同じ。)は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させること等を目的とする学校教育法52条69条の2第1項)ものであり、大学を設置運営する学校法人等(以下においては、大学を設置運営する学校法人等も「大学」ということがある。)と当該大学の学生(以下においては、在学契約又はその予約を締結したがいまだ入学していない入学試験合格者を含めて「学生」ということがある。)との間に締結される在学契約は、大学が学生に対して、講義、実習及び実験等の教育活動を実施するという方法で、上記の目的にかなった教育役務を提供するとともに、これに必要な教育施設等を利用させる義務を負い、他方、学生が大学に対して、これらに対する対価を支払う義務を負うことを中核的な要素とするものである。また、上記の教育役務の提供等は、各大学の教育理念や教育方針の下に、その人的物的教育設備を用いて、学生との信頼関係を基礎として継続的、集団的に行なわれるものであって、在学契約は、学生が、部分社会を形成する組織体である大学の構成員としての学生の身分、地位を取得、保持し、大学の包括的な指導、規律に服するという要素も有している。このように、在学契約は、複合的な要素を有するものである上、上記大学の目的や大学の公共性(教育基本法6条1項)等から、教育法規や教育の理念によって規律されることが予定されており、取引法の原理にはなじまない側面も少なからず有している。以上の点にかんがみると、在学契約は、有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約と解するのが相当である。

これに対し、在学契約という無名契約(特殊な契約)が、厳密に事前に予告した内容でなければないというものであれば、契約違反が成立するとなるのでしょう。

3 旧民法か新民法か

2020年4月入学で学生の地位を持つ人は、2020年4月より前に在学契約を締結しているといえます。

先程の最高裁判例でも、募集に応じて学生が学費を最初に支払った時点(通常は3月)で在学契約が成立していると述べているからです。

このことから、2020年以前入学で大学生の地位にある者の在学契約は、改正前の旧民法が適用されることになりそうです。

この場合には、債務不履行(旧民法415条)の問題なのか、瑕疵担保責任(旧民法570条)の問題なのか等、いろいろと更に法的問題が考えられそうです。

これに対し、2021年入学の学生は、もちろん新民法が適用されます。

4 明星大学訴訟の問題点

いずれにしろ、コロナ感染防止のため公共団体に要請されたことであるから大学がやむを得ずロックアウトとなっていることは不可抗力といえそうであり、そのあたりの事情もかなり重要な問題点となりそうです。

そして、債務不履行に関する旧民法415条は過失がないと責任を負わないという解釈が多数でしたが、改正民法415条においては「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるとき」とだけ記載して、過失・無過失を問わず責任を負わない内容となっています。

ただ、「ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときはこの限りでない。」としています。

コロナ禍で、国家から対面授業を避ける要請があったことが「債務者の責めに帰することができない事由」といえるかどうかは、激烈に争うことになるでしょう。

まだこの内容に関しては、裁判例の集積がないので、今回の明星大訴訟が重要な裁判例となってくるかもしれません。

【2021.6.9改訂】

早稲田大学の意見

 

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櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

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