自動運転における交通事故の責任を弁護士が解説【自動運転レベル1~5について】

最新時事問題の法的考察
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交通事故事件をこれまでに720件以上取り扱っている,千代田区・青梅市の弁護士法人アズバーズ、代表弁護士の櫻井俊宏です。

自動運転にもその性能に応じて、レベルが1から5まであることをご存じでしょうか?
レベル2とレベル3の間には大きな壁があるようです。

自動運転の際の交通事故は誰がそのような責任を負うのか、刑事罰はあるのか等についてお話をしようと思います。
その前提として、まずはこの自動運転の「レベル」についてお話していきます。

1 自動運転の1~5の各レベルについて

レベル1

まず,自動運転の初期段階では、自動車の前後について車間距離を保つようにスピードを調整したり、前の車にぶつかりそうになるとブレーキがかかったりして、自動車の前後の安全を支援してくれるシステム(ここでは「前後のシステム」といいます。)と,左右について車線を逸脱しないようハンドルが自動で動く等調整して、自動車の左右の安全を支援してくれるシステム(ここでは「左右のシステム」といいます。とが考えられます。

レベル1とは,この前後のシステムや左右のシステムがあまり組み合わされず、単一で搭載されている車を言うようです。
この自動運転レベル1は、実際には運転者の運転が求められるので、「自動運転」というよりは「支援運転」というのがふさわしいようです。

レベル2

レベル2とは、レベル1のシステムが連携して作動する車を言います。

前の車に近づいたときは勝手に減速や停車をしてくれる、ウインカーを出さずに車線を越えたときは「ピピピピ」と音が鳴ってハンドルが動く等を同時にする車がこれにあたるのでしょう。

既に日本の車でも結構ありますね。

このレベル2が、従来日本の公道で使用を認められていた技術でした。

レベル3

レベル3とは,高速道路等の特定の場所で、簡単に言うと手を離しても運転がされるような自動運転形態です。

レベル3は、基本的には車任せということになります。
ただし、緊急時には人の手で制御がなされる状態にあることが必須であるようです。

すなわち,ドライバーはドライバー席に座っている必要があります。

このレベルになると「運転支援」ではなく「自動運転」なので、交通事故があった際にドライバーの責任かそれとも自動運転システムの責任か等、いろいろな問題が生じることになりそうです。

2020年4月施行からの改正法で、ドライバーの「運転」の定義に自動運行装置による者を含むとしたこと(道交法2条1項17号「自動運行装置を使用する場合を含む」とした)、どのようなものが自動運行装置というかが規定される等(道交法2条1項13号の2、道路運送車両法41条1項20号。条文を要約すると「自動車の操縦に関する認知・予測・判断・操作の全部を代替する機能」(レベル3)と「作動状態のデータを記録する機能」を持つ装置)、徐々に法整備がなされています。

このことにより、レベル3の自動運転も一応できるようになっていると言えますが、何かあった場合の種々の問題がまだわからない状態とも言えます。

そろそろこのレベル3を運用している車も増えているようです。
ただ、少し前の車に近づきすぎるなど、まだ不安定な面もあるようです。
今のレベルだとかえって事故につながりやすいような場合もあるかもしれません。

レベル4

レベル4では、高速道路等特定の場所においては、緊急時でも自動運転システムに委ねられます。

これこそ完全に機械に運転を委ねる「自動運転」ですね。
レベル4においては、自動運転ができる場においては、乗車している者が運転体制をとらなくて良いと言えます。

レベル5

レベル5では、特定の場所に限らず、あらゆる状況で自動運転となります。

自動車は、日常の生活の場と変わらないようなものになることが考えられます。

本当に漫画等にある近未来の世界ですね。

2 自動運転レベルについてのまとめ

以上述べてきたように、現状、日本ではレベル2までは確実に来ています。
レベル3の導入途中という段階です。

世界でも多少の差はあるが、同じような状況になるようです。

ついに名実共に「自動運転」の領域に入ってきたということです。

しかし、アメリカ等では、自動運転中の交通死亡事故なども発生しており今後の動向が気になるところです。

今回は、それを踏まえて、現状において考えられるレベル3の自動運転において、交通事故等の違反が起こった際どうなるかを考察したいと思います。

3 自動運転における道路交通法上の責任主体は?

自動運転も道路交通法上の「運転」に含まれることになりました(道交法2条1項17号)。

このことからすると、少なくとも道路交通法上の違反については、運転者が運転をしているものとして責任を負うことになりそうです。

しかし、運転者は、通常、ただ自動運転に委ねているのであるから、過失があるという場合は少ないと考えられるので、例えばスピード違反とか、右折禁止違反とかのように、本人に対しての罰則は適用されにくくなるのではないでしょうか。

 

4 刑事罰が認められる場合は?

上述のように、違反があったとしても、ドライバーに故意又は過失がない場合が多いと思います。

2020年4月からの道路交通法の改正においても、運転中にスマホ等を見てはいけないという規制すら、自動運転中は免除されることになりました(道路交通法71条5号の5)。

ただ,レベル3の自動運転においては、緊急時には運転者が対応しなければならないのであり、いつでも運転を引き継ぐ状況は整えておかなくてはならないわけです。

このことからすると、居眠りをしていたり等といった明らかに運転を引き継げない状況にしていた場合には過失があるということになり、刑事罰も認められる場合もあるでしょう。

テスラの自動運転で、居眠りをして起こった事故につき、3月に横浜地裁で判決が出たそうです。
この裁判では、被告人は「居眠りを誘発するような自動車の造りに問題があり、自分に過失はない。」という主張をしたそうです。
結局、有罪とはなったようですが、今後に向けて重要な問題点であると言えるでしょう。

5 自動運転における民事の賠償責任

交通事故の損害に関し、誰が民事の賠償責任を負うのでしょうか。

これに関しては、車の運転で人に怪我が生じる限り、自動車賠償責任法3条が適用され、自動運転をしていた者が無過失であっても責任を負うことになります。

このことから、より任意保険に入っていることが重要となってくるでしょう。
任意保険の内容も、これからは自動運転の場合の商品を各損害保険会社が検討していく必要があるように思います。

これに対し、怪我はなく、車を傷つけられた等の対物事件の場合は、自動車賠償責任法が適用されないので問題となってきます。
これについても自動運転車に対して責任追及できるよう、法律改正等の検討が望まれます。

6 自動車メーカーの責任は?

一度運転者が賠償した後、自動車の不具合、自動運転の不具合が立証できる場合には、運転者がメーカーに責任を追及することも考えられます。

メーカー側がこれを想定して、販売する際に自分達に有利な契約内容(約款等)を用意することも今後考えられるでしょう。

この点に関しては、今後いろいろな問題が生じそうです。

なお、これまで起こった事故は、テスラ社の自動運転車により運転者が死亡したケース、ウーバー社の自動運転車によって歩行者が死亡したケース等があります。
テスラ社の方は運転者の運転態様にも問題があったようです。
ウーバー社の件は、ウーバー社にも責任があったと言えるので、和解で解決したようです。

これからのこのような事例の集積に注目したいところです。

そもそもこのような事故が起こるのは、通信の遅延等によるところもあるようです。
通信がほぼ全く遅延しないという低遅延の「5G」の進化にも期待したいところです。

【2022.11.18記事内容更新】

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櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

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